Far-out syndrome

 第5腰神経がL5/S1椎間板の椎間孔外で障害された病態で、下腿外側から足背に及ぶ下肢痛が主訴で、そのために間欠跛行を呈することがあります。
 診断は難しいのですが、ほとんどの症例で神経周囲に生じた骨棘(棘状に増殖した骨組織)により神経は圧迫されます。そのため、骨棘の骨切除が必要ですが、この部位は体の中心部にありますので、たいへん深い位置にあります。それゆえ光が届きにくい、手術操作を行いにくい、切除した骨棘が再増殖しやすい、などの理由で、以前から骨棘の処置をしないL5/S1椎間の固定術が選択されることが多くなっています。
 一方、PED法ではその器具の長さと細さにより、病変部にほぼ直線的に到達でき、しかも明るく拡大視できます。そのため、神経を圧迫している骨棘までも視野良好に骨切除でき、手術成績は良好です。しかし、体幹深部の手術ですのでレントゲン透視が必要で、手術手技もたいへん難しく、現在も少しずつ改良中です。
(浦山茂樹:整形外科 2016;67:969-974. 浦山茂樹:J Spine Res. 2017; 8: 1283-1292)

15-1図15-①.Far-out syndrome

単純レントゲン像:L5/S1椎間板に沿った正面像

60歳代 男性 主訴:歩行中に次第に増強する右下肢痛による間欠跛行 麻痺あり
L5/S1椎間板の外側に大きな骨棘がみられます(赤矢印)。

 

15-2図15-②.L5神経根に沿ったMRI 像

右椎間孔外で骨棘により右L5腰神経(白矢印)が圧迫されています(赤矢印)。

 

15-3

図15-③.L5神経根造影後のCT像
*:仙骨翼

L5腰神経(白矢印)は仙骨翼(✳︎)とS1骨棘の間で強く絞扼されています(赤矢印)。

 

 

 

15-4

図15-④.MRIとCTの合成画像

L5腰神経(青矢印)はL5/S1の骨棘と仙骨翼の間で絞扼されている(赤印)ことが、立体的に理解できます。

 

 

15-5

図15-⑤.手術直後のCT像  *:仙骨翼
PED法では今までの方法と異なり、仙骨翼の上縁のみ骨切除して進入し(黄色太矢印)、体の深部にあるL5腰神経にほぼ直線的に達することができます。その後、神経に近接し拡大視して病変部である仙骨翼の内側とL5/S1の骨棘を骨切除します(赤矢印)。これによりL5腰神経は全周性に除圧されることになります(これは当院で行われている手術法ですが、まだ改良の余地があります)。

15-6

図15-⑥.他の症例の3Dプリンターによる実態模型

神経はまだ選択的に描出できませんので、骨格のみの模型になりますが、第5腰神経は仙骨翼の上縁内側を走行します(赤矢印)ので、骨棘(白矢印)との位置関係を予想できます。
血管造影後のCTで血管を、脊髄腔造影後のCTで脊髄腔を抽出できますが、神経根造影では神経と骨との判別は現時点では困難です。